映像や大型データなど大容量のデータ保存に欠かせない記録メディア。パソコンや録画機(レコーダー)などの進化に伴って需要が伸びる一方で、その優勝劣敗がはっきりしてきた。 凋落続く光メディア  今年1月。ハードディスク(HD)の中核となるディスク(円盤部)生産で世界トップシェアを争う昭和電工は、第6世代と位置づける「次世代HD」のサンプル出荷を始めた。1枚の記録容量は2.5インチ換算で最大500ギガ(1ギガは10億)バイトと業界最高で、第5世代からも約5割拡大。6年前の初代(同40ギガバイト)に比べれば驚異的な高容量化を遂げた。複数枚を機器に組み込めば、テラ(1テラは1兆)バイト単位のデータが保存できる。今夏には本格的に量産を始める計画だ。 ■ハードディスクの躍進 期待はずれのBD  同社は積極的な投資や買収によってHD事業を急拡大してきた。年産能力は今夏、約3.2億枚と5年前の2倍程度まで引き上げる。  目下、HDは、パソコンなど大容量の記録媒体を必要とする電子機器向けに活況が続く。昭和電工の推定では、同市場は2013年にハードディスクドライブ(HDD)換算で8.5億台に達する見込みで、前年比5割以上増える公算だ。同社の石川二朗執行役員HD事業部門長は「一段の生産能力の増強や、さらなる容量拡大も視野に入れている」と、早くも前のめり。競合のHDメーカーも事業強化をもくろんでいる。  HDが成長を続ける一方、苦境に立たされているのが光メディアだ。中でも、厳しいのが記録型ブルーレイディスク(BD)。3年前、東芝の「HD DVD」撤退により終息した次世代DVD規格戦争で勝利を収め、従来のDVDに次ぐ記録メディアとして期待されたが、その需要は伸び悩んでいる。  日本記録メディア工業会によると、BDは06年に初めて市販された。10年(予測)の市場規模は世界全体で約1億枚に達し、前年から2倍以上に増えてはいる。  が、この数字はソニーやTDK、日立マクセルなどのBDメーカーの期待には到底及ばない。発売から4〜5年で、年間数十億枚の世界市場を作り出した記録型CDやDVDに比べても亀の歩みだ。今後も爆発的な伸びは見込めそうにない状態だ。  BD対応機器の普及自体は進んでいる。家電製品の販売動向を調査するGfKジャパンによると「BDレコーダーは昨年、国内で約457万台が売れ、全体の8割弱を占めた」(ITビジネスユニットの岩渕真貴統括マネジャー)。パソコンも販売台数の約25%、テレビも同約1割がBDドライブ搭載モデルだった。  にもかかわらず、記録型BDの伸びが冴えないのは、CDやDVDが登場したときのような“追い風”に恵まれなかったことがある。  記録型CDが出始めた00年代前半はデータ保存用に加え、音楽CDをコピーするニーズが普及を後押しした。続くDVDは、初期型で1枚4.7ギガバイトと一気に大容量化を実現。従来、アナログ方式でVHSテープに記録していた映像をデジタル方式で記録したい、という消費者のニーズを取り込むことができた。  そして06年に満を持して登場したBD。記録容量は25ギガ〜50ギガバイトにまで拡大し、アナログからデジタル放送への移行が進む中、ハイビジョン番組やデータ保存用として格好の媒体となるはずだった。  ところが、その間に環境は激変した。TDKのストレージメディアビジネスグループ企画部の野坂稔リーダーは、「光ディスク以外の記録媒体で高容量化、低価格化が進んでしまった」と分析する。 ■記録メディアの主役交代 国内大手も減産を表明  競合のHDは年々容量を増し、カーナビゲーションやビデオカメラなど幅広い電子機器に用いられるようになった。USBメモリやSDカードなどの半導体メモリも数十ギガバイト単位へと高容量化し、価格も下落。単なる大容量化では消費者の心はつかめない状態になっていた。  コピーガードが厳しくなったのも顧客離れに拍車をかけた。DVDはレンタルしてきた映像ソフトをコピーするというニーズがあったが、BDではガードが強化されたため、こうした需要に対応できなくなった。  加えて、大容量のHDDを搭載したレコーダーが台頭。録画した番組を見終われば簡単に消せるようになり、「BDにわざわざ記録しなくても、事足りる場面が増えた」(松岡氏)。日本以外の国で録画文化が根付いていないのも、BDの普及拡大の妨げとなっている。  「もはや事業のピークは終わった」(三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長)との言葉どおり、BDの浸透が進まないまま、今後は光ディスク市場の衰退が避けられそうにない。国内で唯一、光ディスクを生産していた太陽誘電が昨秋、CD、DVDの大幅な減産を表明したのはその象徴だろう。欧米中心に光メディア市場で世界最大手の三菱化学メディアも事業の軸足を、光ディスクからHDDなどの分野に移しつつある。  中にはTDKのように、両面で1テラバイトの超多層記録型光ディスクを開発し、需要を取り戻そうという動きもある。が、光メディアを使用する場面が減る中、単なる高容量化はテコ入れ策として不十分だろう。BDの挽回策を欠いたまま、光メディアは凋落の一途をたどっている。 (伊藤崇浩、武政秀明=週刊東洋経済2011年2月19日号) ※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。